給与の支払いは銀行口座への振込が一般的ですが、依然現行法において、賃金の支払いは現金支払いが原則となっています。原則は現金払いですが、職員の同意のもと、例外的に銀行口座への支払いが可能となっており、今般の改正によって、デジタルマネーの支払いという選択肢が追加されるといえます。
デジタル給与払いによる事業場の代表的なメリットとして振込手数料の削減が挙げられています。また例えばデジタル給与のヘビーユーザーにとっては、給与支払方法の選択肢が増えることになり、職員にとってもメリットがあります。
反対に、選択肢が増えることによって、給与支払いの管理の手間が増えることや、デジタル給与払いが強制されると職員に勘違いされた場合、不信感を招くなどのデメリットも考えられますので、導入に当たっては、充分に検討を重ね慎重に進める必要があります。
スケジュールについて、PayPayやLINE Pay、楽天ペイなどの資金移動業者が厚生労働大臣の指定を受けるための申請受付が今年の4月1日からとなっているため、審査を経て実際に指定を受け、私たちが利用できるようになるのは今年の夏過ぎだといわれています。
さて実際にデジタル給与払いを実施しようとする場合に事業場は、いくつかの準備をしておく必要があります。まずは就業規則の見直しです。一般的に、現金払いを原則にして、職員が希望する銀行口座への支払いが規定されているでしょうが、これに加えて、希望者に対してデジタル給与払いを行う旨を記載しなければなりません。また就業規則の改正に加え、労使協定を締結する必要があり、次の4項目を記載しなければなりません。(1)口座振込等の対象となる労働者の範囲(2)口座振込等の対象となる賃金の範囲およびその金額(3)取扱指定資金移動業者の範囲(4)口座振込等の実施開始時期
さらに各職員に向けて同意書を作成する必要があります。その際に、(1)金融機関の口座又は証券総合口座への賃金支払も合わせて選択できるようにすること、また(2)デジタルマネーによる給与支払について必要事項の説明をしなければいけないことに注意しましょう。この必要事項の説明とは指定資金自動業者の指定要件である滞留規制、破綻時の保証、不正引出しの補償、換金性、アカウントの有効期限のことです。これらの内容は同意書に記載したり、指定資金移動業者に説明を委託したりすることによって対応が可能です。
最後にこのデジタル給与支払いに関しては、指定資金移動業者のサービス内容がまだ不透明な部分もあり、実際にどうなるか分からない点も多くあります。導入するにあたっては今後の動向を見守りつつ進める必要がありそうです。導入検討の際は、ぜひ社会保険労務士にご相談ください。