労働基準法施行規則と雇止めに関する基準の改正に伴い、今年の4月より労働条件明示事項等が変更されることになりました。会社によっては労働条件通知を労働契約書が兼ねていることもありますが、入社時や契約更新時の書面の内容を見直す必要があります。実務面においては、書面の内容を見直すことで足りますが、その意味するところについて少し触れてみましょう。
●労働条件は明示する義務がある
労働契約を新たに結ぶ、また更新する場合には会社は労働者に対して、契約期間や就業場所・業務、労働時間や休日、賃金、退職などに関する事項を明示する必要があります。この明示する内容は法令上定めがありますが、特定の決まった様式はなく、会社によって異なります。厚生労働省がみほんの様式を用意しているので、そちらを参考にしてもいいでしょう。
●今回の改正のポイント
1.就業場所・業務の変更の範囲の明示
すべての労働者を対象に「就業場所と業務の変更の範囲」について、労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時に、書面による明示が必要になります。
2.更新上限の明示と更新上限を新設・短縮する場合の説明
有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限がある場合には、その内容の明示が必要になります。またあらかじめ更新上限を設定する・短縮する理由を労働者に説明することが必要になります。
3.有期契約労働者に対する無期転換申込機会の明示
「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間、無期転換を申し込むことができる旨を書面により明示することが必要になります。
なお時期については2024年4月1日以降に契約締結・契約更新をする労働者となりますが、事前に変更することも問題ありません
●労働契約法の成り立ち
この話の土台のひとつとなるのが『無期転換ルール』を定めている法律が労働契約法です。労働契約法が制定されたのは2008年であり、戦後間もない1947年にできた労働基準法などに比べると比較的最近できた法律です。過去積み上げてきた判例を明文化した側面もあり、民事的なルールとして制定されました。
そののち2013年には無期労働契約への転換ルールや雇止め法理の明文化がされて改正施行しています。この改正以後、5年が経過するころには無期転換に関する労使トラブルで再びニュースでは注目を集めていました。
●雇用を守る重要性
今回の改正の背景には無期転換ルールの認知度が不十分であるという課題があります。有期労働契約(いわゆる契約社員)の契約期間が通算して5年を超えて更新した者が申し込むことによって無期労働契約に転換しなければならなくなるルールのことです。
先日、訪問した会社の経営者も、そのことを初めて知って大変驚いていました。「先がわからないのに無期契約しないといけなくなるのはリスクが大きい」と。まさに改正の背景にある課題の通り、認知が不十分であることを物語っているように感じました。先の見えない経営のことを考えれば、契約社員が労働力の調整弁のようになっている現状と、安易な解雇が許されないという雇用を守る重要性もみえてきます。
特に最近では2013年の改正施行から10年が経過し、無期転換の特例対象(10年)であった大学教員等を中心に雇止めの問題が再びニュースになっています。今回の労働条件通知書の改正とあわせて、雇用のルールの重要性を再認識するいい機会になればと思います。