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2024年問題(運送業の残業問題)3/3

前回まで自動車運転業務についてみてきましたが、これに加えて、現在進められている労働政策についていくつか見ておきたいと思います。

2024年問題とは直接関係はありませんが、一緒に考えておきたいテーマをピックアップします。

【年休の付与義務】

すでに2019年より始まっているため、充分に認知もされてきていますが、年間5日の年休取得が会社に義務付けるものです。会社は従業員に休みを与えろ、という内容ですが、その分、労働時間が削減されてくることは明白で、人手不足の問題ともつながってきます。

しかも、これはあくまで最低でも5日取らせろという話ですから、残る未消化の年休は会社にとっては隠れた負債(義務)のようになっていくるでしょう。

年休を取らせることはその穴埋めをするための労働時間の確保が必要になることを意味します。

【月60時間超の割増賃金率】

2023年4月からは中小企業も月60時間を超える残業は割増率が25%から50%へと引き上げられます。長時間労働が常態化している企業にとっては大きな負担となってのしかかるでしょう。

ここでもテーマは経費負担の増加と長時間労働の抑制、ひいては人手確保の問題です。

【同一労働同一賃金】

働き方改革の中では、最も疑問が多いテーマではないでしょうか。

年休の付与義務と異なり、「これをすれば大丈夫」というわかりやすい取組ではないため、何をすればいいのか悩んでいる経営者も多いように感じます。 押さえておきたいのは、比較されているのは正規社員と非正規社員(契約社員、パートアルバイト、派遣社員)との間の不合理な待遇格差を解消させることが目的であることです。

正社員間の話ではない点、「不合理な」待遇格差の是正が目的である点を抑えておけば話は飲み込みやすいように感じます。

契約自由が原則なのに、なぜ政府が口をはさむのか、疑問に思う方もいるかもしれませんが、年齢ごとに区分した賃金カーブを正規・非正規で比較したグラフをみれば、その問題点が見えてきます。

統計では20歳前後では時給1,000円ほどでスタートしており、正規・非正規、両者ほとんど差がありません。しかし、正社員は年齢を重ねるごとに給料は上がり50歳~54歳で約3,100円/時でピークを迎えるのに対して、非正規はほとんど横ばいで変化が見られません。

焦点はこの格差が合理的な差であるか否かです。

以前は確かに正社員の補助のような役割であった非正規社員も、人手不足が加速する中で、その区分があいまいとなってきました。非正規社員が正社員のような役割を担い、また正社員が非正規社員の業務を請け負うような状況が発生し、この賃金の格差の理由は身分による格差のようになったものと推察します。

経緯はともかく、これから会社に求められるの正規・非正規の間にある格差の合理的な説明です。

こうした背景もあって、同政策は進められています。

事業者として気になるのは、この政策が引き起こす結果でしょう。

同一労働同一賃金は、つまるところ格差是正ですが、正社員の待遇が引き下げられることは考えられませんから、非正規社員の待遇改善→給料アップ→経費増が考えられます。

先行して同一労働同一賃金に取り組んだ企業が非正規雇用を吸い取っていくことも、また想像できるかと思います。 そうなれば非正規の待遇改善で経費がUPしていくだけでなく、非正規の労働力確保が難しくなることから非正規社員の奪い合いの状況も想像できるでしょう。

【最低賃金の上昇】

毎年10月の最賃UPにため息をつている経営者もいらっしゃるかと思います。

これはいつまで続くのか?

厚生労働省のHPにもありますが、全国加重平均1,000円を目標に掲げているため、もうしばらくは年率3%で引上げが続いていくことでしょう。

会社としては経費がかさむことだけではありません。皮肉にも時給が上がる分、夫の扶養のままでいたいパートタイマーが、所得を抑えるために出勤を控えるような現象も起きています。

その結果、会社にとっては出勤してもらいたいけど、出てもらえない、なんてことも増えてくるでしょう。

ここでもまた同じ課題に直面することになります。経費増と人手不足です。

【最後に】

・・・以上、色々とみてきましたが、どれをみても最終的に帰結するのは経費増の問題と人手不足の問題の2点です。2点といっていますが、需要と供給の関係から言えば、それぞれに無関係ともいえません。

供給たる社会的な人手不足が進めば、必然的にその価格である給料は上がるわけでして、それは経費増につながることになります。

経費増のしわ寄せが、商品サービスに転嫁され顧客が負うのか、取引先が引き受けるのか、職場環境に影響するのかわかりませんが、小手先の対応で解決しないことははっきりとしています。

社労士としてこれらの課題をみていて思うのは、法令の改正にいかに対応するか、という視点では足りないということです。

事業者にとっての本当の脅威は行政からの指導ではなく、市場から見放されることです。

職場環境が悪いことが原因で、人手が集まらず、また定着しなければ会社は行き詰ります。それは引いては顧客の期待に応えられなくなることを意味します。

これまで法令について話してきましたが、いっても法令は政権が変れば、変わる可能性もあります。その一方、少子高齢化による人口減少は「すでに起こった未来」ともいわれ、変えがたい未来のひとつです。

経営者は法令上、何をしなければならないかというを議論しないといけないことはもちろんですが、今後会社を継続していくためには「どんな会社でありたいか」もあわせて考えていくことが必要になります。

働くことが楽しくなり、いきいきと働ける職場をつくることが企業の存続には不可欠となってくると確信しています。私自身あらためて、労働法令遵守だけに目を奪われることなく、社会のあるべき姿について考えていく必要があると感じました。

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